SABOの八つの世界   

      シナリオ『アフロディーテ』 2
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○ 同・廊下
  畠山頭取(60代)が歩いてくる。が、前方を見ると、急に変な顏をして立ち止まる。
  向こうから執事(60代)がやってくるのである。その姿は、まるで幽霊のように生気がなく、
  どういうわけか腕には長い蝋燭(ろうそく)をいっぱい抱えている。そして、自分を怪訝(けげん)そうに眺めてい
  る頭取に会釈すると、そこを通りすぎて、階段を登り始める。
  頭取、わけがわからないという顔であたりを見回すと、足音を忍ばせて階段まで行く。見上
  げると、登っている執事が二階の廊下に見えなくなる。
  頭取、恐る恐る階段を登り、あとをつける。

○ 同・二階の廊下
  階段を登ってきた頭取、体を傾けて廊下を見渡す。
  すると、十数メートル離れた所に、蝋燭を抱えた執事が立っている。執事、その前の部屋の
  ドアの鍵を開けると、その中へ消える。
  それを狐につままれたような表情で見つめている頭取。

○ 同・居間
  頭取が入ってくる。依然として狐につままれたような顔で考えこんでいるが、そこに星がい
  るのに気づくと、すぐに普段の顔に戻る。
  星、立ちあがりながら愛想笑いを見せる。
星 「これは頭取、お早いお着きで」
頭取「お早いって君、もう二時はとっくに過ぎてるよ」
星 「はあ、(と腕時計を見て)そう言えばそうですな」
頭取「佐伯社長は時間にはうるさい人だと聞いていたが」
星 「いや、これも社長の作戦なんですよ」
頭取「作戦?」
星 「はい。つまり、時間を守るのも相手との力関係によるんです。相手を待たせるのは、最初
 から自分のほうが優位に立とうとしているからです」
頭取「……ふむ、なるほど」
  頭取、ため息をつくと、腰を下ろす。
  星も同じく腰かける。
頭取「ところで星君、君にちょっと聞いておきたいんだが」
星 「何でしょうか」
頭取「その……佐伯不動産ていうのは、本当に信頼のおける会社かね」
星 「はは、何を言われるんです。佐伯不動産の経営内容については、頭取もよくご存じでしょう」
頭取「いや、僕が言ってるのは、会社の経営内容じゃない。経営内容が申し分ないことはよくわ
 かっている」
星 「では、いったい何が問題なんですか」
頭取「つまり僕が心配しているのは、あの社長個人のことさ」
星 「社長個人?」
頭取「うむ。どうもあの佐伯亮一っていうのは、得体の知れない人間だという噂だ。本当に信頼
 がおけるのかね」
星 「はは、それはご心配にはおよびませんよ。なにしろ天才経営者ですからね」
頭取「天才?」
星 「はい、私はそう確信してます。……(声をひそめ)もっともここだけの話ですが、少々紙一重(かみひとえ)
 の所もありますが」
頭取「紙一重?」
星 「はい」
頭取「というと?」
星 「いや、それはいずれわかります」
頭取「いや、それは困るんだよ。突然妙な行動にでも出られたら、たまらないからね」
星 「いや、もし彼が常識外の行動に出たとしても、それが私たちの不利益になることはまずあ
 りますまい。なぜなら、彼は自分自身の利益にならないようなことは絶対にしないからです。
 そして彼が豊かになるということは、そのまま頭取の銀行が(うるお)い、同時に私の(ふところ)も暖かくなる
 ことに結びつくのです」
頭取「うむ」
  と考えこむ。
星 「……では、佐伯社長に関する私の知識をもう少しお伝えしましょう。……まず、彼は酒は
 飲まず、タバコは吸わず、賭け事は一切せず、そして女嫌いです」
頭取「女嫌い?」
星 「はい。あの年まで女の手も握ったことがないという話です」
頭取「まさか……」
星 「そして趣味は射撃。彼の唯一の趣味です。……しかし、この謹厳(きんげん)実直な仮面の裏に、冷酷
 で権謀術数(けんぼうじゅっすう)にたけた経営者としての顔が隠されています」
頭取「……」
星 「警察に捕まるようなことは絶対にしない。しかしその範囲内でなら、富を得るためにかな
 りひどいこともする。私に言わせれば、彼がこの世で愛しているのは富、ただそれだけですな。
 人は決して愛さない。人は憎むことしか知らない。そこが彼の強さです」
  頭取、ため息をつくと考えこむ。そして、ふと何か思いつく。
頭取「ところで星君、さっき妙なものを見たんだが」
星 「妙なものといいますと?」
頭取「うむ、(と廊下の方を振り向き)あっちの廊下で気味の悪い年寄りに会ってね、なんか()
 せてて幽霊みたいなんだ」
星 「はあ、それはきっとここの執事ですよ」
頭取「執事?」
星 「ええ、あの社長にお似合いの執事です」
頭取「うむ。とにかくその男が腕に長い蝋燭(ろうそく)をたくさん抱えててね」
星 「(変な顏をして)蝋燭?」
頭取「うむ。そしてそのまま二階へ上がってくもんだから、あとをつけてみたんだ。そしたら昼
 間から鍵のかかっている部屋へ入っていった。いったい、あれは何だい」
星 「(首をかしげ)さあ……それは私も初耳ですな」
頭取「ふむ、そうか。全く妙な屋敷だな」
  と気味悪そうにあたりを見回す。
星 「ところで頭取、あの執事について面白い話があるんですよ。二年前のことですがね」
頭取「何だい」
星 「私はあの執事をからかってこう言ってやったんです。『君は本当に幸せ者だね。あんな心
 やさしい聖人みたいな人に仕えられて』と。ところが、あの執事ときたらその皮肉を()に受け
 て、こう答えたものです。『全くさようで。この世に旦那様ほど愛情深い方はいらっしゃいません』」
  二人とも笑う。しかし、星は笑いを引っ込めると、
星 「もっとも、あの執事がそう言うのも無理からぬことかもしれません」
頭取「というと?」
星 「あの執事は、かつて借金で首が回らなくなって、自殺しようとしたことがあるそうです。
 それを佐伯社長に救われたということで。つまり、社長は命の恩人というわけです」
頭取「ふむ……ということは、あの社長にも少しはいい所があるんじゃないか」
星 「頭取、佐伯社長が慈悲心からあの執事を助けてやったとお考えで。とんでもない。自分の
 ためですよ」
頭取「自分のため?」
星 「ええ。だってそうでしょ。独裁者には、忠実な部下というものが是非とも必要です。絶対
 的に忠実な部下がね。考えてもごらんなさい。崖っぷちにその男を立たせておいて、『飛び下
 りろ』と命じたら、ニコッと笑って飛び下りる。そういう人間がいるということは、実に便利
 なものですからな」
頭取「……」
  家政婦が紅茶を持って入ってくる。
家政婦「いらっしゃいませ。星様、おひさしぶりです」
星 「いや、これは浜田さん、相変わらず元気かね」
家政婦「(紅茶を置きながら)はい、おかげさまで」
星 「ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけどね」
家政婦「何でしょう」
星 「さっき頭取がここの執事に会ったんだが、そのとき彼は腕にいっぱい蝋燭を抱えていて、
 二階の部屋に入っていったそうなんだ。それは一体、何なんだい」
  家政婦、やや(けわ)しい顔になり、
家政婦「さあ、私は存じません」
  星、家政婦の服の(そで)を引っぱりながら、
星 「ねえ、教えてくれたっていいじゃないか」
家政婦「いえ、本当に存じませんのです。(声をひそめ)私も今まで何回か執事があの『蝋燭(ろうそく)
 ()』に入るのを……」
星 「(家政婦の言葉をさえぎり)『蝋燭の間』?」
家政婦「はい、私どもはあの部屋をそう呼んでるんです。……あの『蝋燭の間』に執事が長い蝋
 燭をたくさん持って入っていって、短くなったのを持ち出すのを見ています。でも、あそこに
 入れるのは、旦那様と執事だけ。ほかの者は入ることはもちろん、中をのぞくことさえ禁じら
 れています」
  星と頭取、思わず顏を見合わせる。
家政婦「(やや気まずい顔で)では、失礼します」
  と出て行く。
  二人、黙ったまま考えこんでいる。が、しばらくすると頭取、
頭取「星君、ここで君の想像力を働かせてもらおうじゃないか」
星 「は?」
頭取「つまりその……『蝋燭の間』には何があるか」
星 「はあ……」
  と考える。そして、時々ニヤニヤしながら、頭取とチラと目を合わせたりしているが、
星 「うむ……私が思うには、その『蝋燭の間』には……蝋燭があります」
頭取「チッ、何を言ってるんだね、あたりまえじゃないか」
星 「いや、待ってください。その明かりを燈した蝋燭の林を通り抜けると、一番奥には祭壇が
 ある」
 と手で祭壇の形を示す。
頭取「祭壇?」
星 「はい。そしてその上には髑髏(どくろ)が置いてある」
 と髑髏の形を手で示す。
頭取「髑髏?」
星 「そうです。佐伯社長は毎晩、その髑髏に呪文(じゅもん)をとなえる。そうやって商売(がたき)を呪い殺すん
 です」
頭取「いや、そいつはいい。そいつは有りうるよ」
  二人、はしゃぐ。
  その時、玄関の方でチャイムが鳴る。
  思わず笑いを引っ込める二人。

○ 同・玄関
  下男がやってきて、ドアを開ける。
  佐伯と矢吹である。
下男「お帰りなさいませ。畠山様と星様がいらしてます」
佐伯「うむ」

○ 同・居間
  佐伯と矢吹が入ってくる。
  星と頭取、立ちあがる。
星 「これは社長、ご機嫌よろしゅう。は、それに専務の矢吹様もご一緒で」
  矢吹、星のわざとらしい愛想笑いに不快な顏をする。
星 「では、私から紹介させていただきましょう。(佐伯と矢吹に)こちらはかのリノス銀行の
 畠山頭取です。(頭取に)こちらは佐伯不動産の佐伯社長、それに矢吹専務です」
  頭取、佐伯に手を差し出し、
頭取「どうぞよろしく」
  佐伯、その手をチラと見るが、
 「こちらこそ」
  と言っただけで、握手をせずに椅子に腰かける。
  頭取、変な顏をして手を出したまま突っ立ってるが、矢吹が代わりにその手を握る。
矢吹「よろしく」
頭取「……いや、こちらこそ」
  あとの二人も腰をおろす。
佐伯「で、星君、どの程度まで進んでいるのかな、株の買い占めは」
星 「きょうで二十万を越えました」
  佐伯、やや驚き、
佐伯「もう、そんなにいったのか」
星 「はい。ホテルニューパエトーンの総株数が七十万株。乗っ取りが成り立つ過半数に達する
 ためには、あと十五万株以上買い占めればいいわけです。しかし、これからが問題です」
佐伯「……というと?」
星 「最初十テミス程度だった株価は、すでに二倍近くになってます。これからはさらに加速度
 的に値上がりしてゆくでしょう。それにホテルニューパエトーンの社長と重役たちは、すでに
 買い占めに気づいたようです」
矢吹「(顏をしかめ)買い占めに気づかれたって?」
星 「はい、買い占めた株は数人の名義に分けておいたんですが、それが皆私によって買い占め
 られたこと、さらに株の本当の持ち主が佐伯社長であることも、薄々感づいているようです」
矢吹「しかし、それでこれから先、うまくいくのか」
星 「いや、これからが私の腕の見せ所です。なにしろ、会社の乗っ取り屋一筋、十数年やって
 きたんですから」
矢吹「君の自慢話はいい。本当に大丈夫なんだろうな」
星 「まかせておいてください。あと問題は資金だけです。社長からお預かりした四百万テミス
 は、もうほとんど底をついてしまいました。これからはさらに莫大(ばくだい)な資金が必要です」
  星と矢吹が話している間、佐伯は下唇をいじりながら聞いていた(それが彼の癖である)。
  そして頭取はその佐伯をやや怪訝(けげん)そうな面持(おもも)ちで観察していた。
佐伯「その点は心配いらない。頭取、これに関する融資はお願いできるんでしょうな」
頭取「はあ、それはもう喜んで……(が、顏を曇らせると)ただ、その……(と言いかけ、葉巻
 を取り出す)あの、すいません、灰皿は?」
  佐伯、黙って目を伏せる。
矢吹「この家には灰皿はありません」
頭取「(変な顏をして)は?」
星 「社長はタバコの煙がお嫌いなので……」
頭取「(あっけにとられ)はあ……さようで」
  と仕方なく葉巻をしまう。
  一瞬、気まずい沈黙が流れる。
頭取「……で、その……ちょっと気がかりなことがあるんですが」
佐伯「というと?」
頭取「その……いやな噂を耳にしたんです。このことに淡口ファミリーが乗り出してきたという……」
矢吹「淡口ファミリーって……あのギャングの?」
頭取「はい、いや、これは単なる噂ですが、ホテルニューパエトーンの幹部たちが、乗っ取りを
 阻止するために淡口ファミリーに働きかけたということです」
矢吹「うむ、汚い手を使う奴らだ。(佐伯に)それだと面倒なことになるぞ、人殺しも平気です
 る連中だからな」
頭取「そうなんです。なにしろ銀行は信用が第一ですから、妙なゴタゴタには巻き込まれたくな
 いというのが正直な気持で」
星 「いや、頭取、それについては私も聞いてましたが、そんなことで()()づいていたら、何
 もできやしません。私も今日まで、何度命を(おびや)かされるような目に会ったかわからない。しか
 し負け犬にはなりたくないという一心で、数多くの危難をくぐり抜けてきました。淡口ファミ
 リーだかなんだか知らないが、所詮(しょせん)はやくざ。正義の威光の前では萎縮してしまうでしょう。
 我々が力を合わせれば、恐いものなしです」
矢吹「……ふむ、たいした演説だな。君は政治家になったほうがいいんじゃないか」
佐伯「とにかく淡口ファミリーといえども、そう表立って無法なことはできないでしょう。警察
 が乗り出してきますから。多少のいやがらせはあるかもしれないが、それは覚悟の上です。頭
 取、あなたの銀行には迷惑はおかけしません。安心して協力してください」
頭取「(ややとまどって)……はあ」
                                   (O・L)


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