SABOの八つの世界   

      シナリオ『アフロディーテ』 1
風水の真実ザ・有名人占星術映画・Jポップエッセイ私の映画企画私のマニフェスト八道州・七新都市構想ここがおかしい 日本人類の歴史を変える新哲学

HOME(トップページ)

メッセージ

私のプロフィール

メール・コピー等について

サイトマップ

SABOの東京名所写真

  『アフロディーテ』に戻る

佐伯 亮一(45・25) 佐伯不動産社長
原田 美紀(40・20、旧姓 菅野)
矢吹 徹 (45・25) 佐伯不動産専務
   ○
野上(43・23) 精神科医
星 (42)   会社の乗っ取り屋
淡口(50代)  ギャングのボス
畠山(60代)  リノス銀行頭取
執事(60代)
男X(30代)
塚田(24……回想シーンのみ)
   ○
射撃クラブの支配人
下男 
家政婦
その他


本文
 ○ 文中に出てくる記号

N……ナレーション
O・L……オーバーラップ。前の画面が徐々に消えてゆくのに重なって、後の画面が現れてくる手法。近年のシナリオには表示しない人が多いが、私は入れている。




○ 石の階段(寺院の三階)
  すでに五十代になった矢吹(とおる)が登ってくる。廊下を通り、屋上へ行く階段を登ろうとして、
  ふと壁のある場所に目を止める。そこには、一つの弾痕のようなものがある。矢吹、それに
  指先で軽く触れ、一瞬物思いにふけるが、すぐに屋上へ向かう。

○ 同・屋上・出口
  この石で囲まれた狭い空間は、小さな礼拝室のように神聖な雰囲気に満ちている。壁には十
  字架にかけられたキリストの小像があり、そこに小さなステンドグラスから差し込む鈍い光
  が当たっている。
  矢吹、この空間にたたずみながら、何か深い想いにふけっている。そして、矢吹の声でナレ
  ーション。
N「私の名は矢吹徹。この国で、ある不動産会社を経営している。私がこれから物語るのは、私
 のかつての親友だった佐伯亮一と、彼に起きた奇蹟についてだ。……奇蹟なんてくだらないっ
 て? 信じたくない人は、信じなくてもいい。……しかし、そういう人たちにとっても、この
 物語はやはり興味深いものだろう。なぜなら、佐伯という人間と、彼の人生というものが、一
 風、いや、かなり変わったものだったからだ」  
  矢吹、おもむろに石の床にひざまずくと、目の前の床を、それが何か聖なるものででもある
  かのような眼差しで見つめる。そして右手でその上を撫でると、(こうべ)を垂れて(ひたい)をそこに
  付け、目を閉じたままじっと動かずにいる。しばらくして目を開けて額を離すと、我に帰った
  ように上体を起こし、少しふらつきながら立ちあがる。
N「……何の話だったっけ。そう、奇蹟だ。何が奇蹟を起こしたのか」
  矢吹、壁のキリストの小像を見つめる。
N「……神か。……いや、私はそうは思わない」
  階段を下りはじめる矢吹。

○ 同・礼拝堂
  階段を下りてきた矢吹、ここに入ってきて、奥の中央へ向かう。この礼拝堂は、二列に机と
  椅子が並んでいるのだが、その一番前に、一つの椅子が忘れられたように置いてある。矢吹、
  そこに腰を下ろすと、再び物思いにふけっている。
N「……そう、奇蹟を起こしたのは神ではない。それはまさに佐伯の情念なのだ。それも二百年
 以上も続いた……。どうして一人の人間の情念が二百年以上も続くかって? 全く奇妙な話だ。
 (真剣な眼差しで宙の高い所を見つめ)しかし、今でもあれがそう言ってるんだ。……あれが」

○ マリア像(メインおよびクレジットタイトル)
 
 この像は、普通のマリア像とは何か違ったものを感じさせる。(ひだ)の多い服で(おお)われた胴体は何の変哲もなく、また垂れ下がった左腕は、指先が服からのぞいているだけだ。しかし、(なか)ば宙に伸ばされた右腕は(ひじ)まで露出していて、胴とは不釣合に妙になまめかしい。さらにその頭部は、マリアというよりギリシャ神話のアフロディーテ(ビーナス)の像を思わせる。
そしてその顔には、この映画のヒロインの美紀の面影が感じられる。カメラ、像全体から徐々にその顔と右手に近づいてゆく。


○ タイトル
『架空の国パエトーン共和国。その首都ポセイドン。一九六〇年代』

○ ピストルの射撃クラブ・練習場
  的。その中心に命中する銃弾。撃っているのは佐伯亮一(45)である。防音用の耳当てをし、
  無表情で的を見つめている。だが、その狙いは恐ろしく正確だ。
  広い屋内の練習場。佐伯のほかには十数人の人々が練習している。

○ 同・ロビー
  四十五歳の矢吹がやってくる。練習場との間にあるガラス窓に近づき、中をのぞく。
  すると、支配人がやってきて
支配人「失礼ですが、会員の方で?」
矢吹「いや」
支配人「あの、このクラブは会員制ですので……」
矢吹「いや、そうじゃない。人を呼び出してもらいたいんだ、十二番の」
  と練習所を目で示す。
支配人「(微笑して)いや、そうですか。これはどうも。十二番ですね」
  と窓をのぞく。が、十二番の佐伯を見ると、ハッとして矢吹の顔と見くらべる。
支配人「あの方のお知り合いで?」
矢吹「(変な顏をして)うん」
支配人「はあ、さようで……(と相好を崩し)では、ぜひともお願いがあるのですが」
矢吹「(怪訝(けげん)そうに)……何だね」
支配人「あの方を説得していただけないでしょうか。今度の競技会に出るように」
矢吹「競技会?」
支配人「はい。今まで何回も出るようにおすすめしたのですが、どうしても首を縦に振っていた
 だけなくて。あの方の腕前なら、優勝は間違いありませんのに」
矢吹「へえ……社長が……」
 と意外そうに練習場の佐伯を見つめる。
支配人「社長?」
矢吹「うん。佐伯不動産て知ってる?」
支配人「はあ……聞いたことはありますが」
矢吹「あれがそこの社長さ」
  支配人、佐伯をまじまじと見て、
支配人「はあ……あの方が」
矢吹「しかし、それほどの腕とは知らなかった」
支配人「いえ、そりゃもう、あの方に並ぶ人はここには一人もいません。このクラブから優勝者
 を出せば、ここの名誉にもなりますし……」
矢吹「それに宣伝にもなるというわけか」
支配人「……はあ……まあ……」
矢吹「しかし、だめだな」
支配人「は?」
矢吹「彼は一度こうと決めたら決して変えるような人間じゃない。たとえ誰が説得してもね」
支配人「(がっかりして)はあ……さようで」

○ 同・練習場
  佐伯の手元にあるランプが点滅する。佐伯、ロビーの方を振り返る。
  窓で矢吹が手を挙げて合図している。
  変な顏をしてピストルを置き、耳当てを取る佐伯。

○ 同・ロビー
  佐伯が練習場から出てくる。
矢吹「やあ」
佐伯「どうしたんだ。射撃でも始めるつもりになったのか」
矢吹「いや、僕にはああいう単純作業みたいなスポーツは向かないな。ルーレットやポーカーを
 しているほうが性に合ってる」
佐伯「じゃあ、いったい何の用だ。日曜から仕事の話はごめんだよ」
矢吹「そう言う自分はどうだ」
佐伯「ん?」
矢吹「日曜に自宅で乗っ取り屋と頭取と密談じゃないか」
  佐伯、知られてしまったことに驚き、
佐伯「誰から聞いた?」
矢吹「執事さ。さっき今週のスケジュールのことで電話したら、わざわざ向こうから教えてくれ
 たよ。まさか僕にまで秘密にしているとは思わなかったらしい」
佐伯「ふむ、ま、いい。どうせ近いうちに話すつもりだったんだ。(腕時計を見て)車で待って
 てくれないか」
矢吹「ん?」
佐伯「(練習場の方を見て)もう少し続けたいんだ。途中だからな」
矢吹「(うなずく)ははん」
  佐伯、練習場に戻る。
  矢吹、外へ出て行こうとするが、思い直して窓に寄り、練習場をのぞく。
  再び、耳当てをした佐伯が射撃を始めている。
  それを見ている矢吹、感心したように首を横に振る。

○ ビルの前
  この都市は、ヨーロッパのどこかの都市のように見える。
  ビルから出てくる佐伯。通行人はコートを着ていて、冬であることがわかる。
  大型のロールスロイスが止まっていて、運転手がドアをあけて待っている。佐伯が乗り込む
  と、運転手はドアを閉める。

○ 後部座席
  佐伯と矢吹。車、走り出す。
矢吹「一体、何を(たくら)んでるんだ」
佐伯「想像はつくだろう?」
矢吹「ああ、あの下司の乗っ取り屋が出てきたのではな。今度の餌食はどこだ」
佐伯「ホテルニューパエトーン」
矢吹「(驚いて)ホテルニューパエトーン?」
佐伯「ああ」
矢吹「本気か」
佐伯「(薄笑いを浮かべている)……」
矢吹「しかし、どうしてそんな重要な話を隠してたんだ」
佐伯「成功が確実になるまで知られたくなかったのさ。まあ、きょうは何とか目処がつくだう」
矢吹「(ため息をつき)……でも、そんな大仕事を星なんかにまかせて大丈夫なのか」
佐伯「あれは役に立つ男さ」
矢吹「だが、金を出す人間には誰にでも付く」
佐伯「だから僕の言うことは何でも聞くんだ。一番金離れがいいからな」
矢吹「ふむ。それからもう一つ()に落ちないことがある。あんな二流銀行の頭取をどうして呼ぶんだ」
佐伯「こうしたことは大っぴらにはできないから、一流銀行には働きかけにくい。その点、あの
 頭取は星とは昵懇(じっこん)の仲だ。それに二流銀行のほうが利子を安く抑えられる。とにかく君も、き
 ょうの集まりに加わったらいい。いろいろ面白い話もあるから」
矢吹「ああ、そうだろうな。……で、何時に集まるんだ」
佐伯「二時さ」
矢吹「二時?(と腕時計を見て)もう二時は過ぎてるぞ」
佐伯「(平然と)ああ、そうさ」
  矢吹、あきれたようにため息をつく。

○ 佐伯邸・玄関
  チャイムが鳴る。下男がやって来て、ドアを開ける。星(45)である。
下男「これは星様、おひさしぶりでございます」
星 「うむ、社長はご在宅かな」
下男「は、ただいま外出しておりますが、もう帰って来ると思います。どうぞ中でお待ちください」
星 「うむ」
  星、中に入り、コートを脱ぐ。
下男「先程から畠山様がいらしております」
星 「うむ、そう」
  と下男にコートを渡す。
下男「どうぞこちらへ」
  と居間へ案内する。

○ 同・居間
  日本式にいえば、百畳ほどの広さで、二階まで吹き抜けになっている。天井からは巨大なシ
  ャンデリアが垂れ下がっている古風で(ぜい)を尽くした部屋である。
  しかし、誰もいない。
  入ってきた星、変な顏をしてあたりを見回す。そして案内してきた下男に、
星 「畠山頭取は?」
下男「ただいま洗面所にいらしてます」
星 「ふむ、そうか」
下男「では、しばらくお待ちくださいませ」
  とそこを去る。
  星、椅子に腰を下ろす。

 『アフロディーテ』に戻る  シナリオ『アフロディーテ』2に進む  このページのトップに戻る