八道州・七新都市建設の提言 2 -第一章 八道州・七新都市構想とは(その2)- |
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『八道州・七新都市構想』に戻る 「都市」が富を生む 八道州・七新都市構想 では、どうすればよいのだろうか。私はこの問題を解決する鍵となる概念は「都市」であると思う。かつて農業社会においては広い土地を持っていることが富の条件であった。工業社会になると、工場などの生産施設が富を生み出した。そして今入りつつある知価社会・情報化社会においては、優れた知恵や感性を持った人間が集まる魅力的な都市が富を生む。豊かな経済を生み出すのは、「土地」ではなくて「都市」なのである(たとえばアジアにおいても、香港やシンガポールといった『都市』がいかに小さな土地で大きな富を生んでいるか考えてほしい)。しかし道州制というのは、日本を地理的な区域、すなわち「土地」によって分けたものにすぎない。その結果明らかになったのは、各道州間における魅力ある都市の偏在、そしてその結果としての途方もない富の格差である。それをはっきりさせるため、次に日本を八つの道州に分けた場合のおおよその州内総生産を記してみよう。 北海道……一九兆円 東北州……三二兆円 関東州……一七四兆円 中部州……八四兆円 近畿州……八六兆円 中国州……二八兆円 四国州……一三兆円 九州………四六兆円 (経済企画庁「県民経済計算」を元に試算) いかがであろうか。あまりにも各道州の格差がありすぎるので、十二道州に分ける案などでは東京を一つの州にしたりしているが、これは東京への経済の一極集中を固定化してしまうので反対である。しかし、そうした場合でも東京の総生産は八三兆円に達し、四国全体の六倍になる。それでいて人口は三倍に満たない。すなわち、四国の総生産は、国民一人あたりに換算しても、東京の半分以下になってしまうのである(もっとも、全国の大半の県は半分以下ではある)。そして今後「社会の知価化」が進めば、経済活動における都市の比重はさらに増大し、東京と地方の格差はますます広がってゆくだろう。 そして、このような状況を生んでいる東京および東京圏というものがいかに異常な特徴を持っているかということは、アメリカと比べるとよくわかる。アメリカは政治機能は首都ワシントンにあり、金融や貿易を中心とした経済、それに演劇芸術の中心はニューヨークである。一方、映像文化のメッカはなんといっても反対側の西海岸のロサンゼルスにあるハリウッドであり、そのほか歓楽街のラスベガスや、エレクトロニクスの企業が集まるシリコンバレーなど、様々な個性や機能を持った都市が情報発信機能を備え、広大な国土に見事に分散している。このことが、アメリカが各地域の個性的な発展を実現している要因の一つといえよう。 それに対し東京は、ワシントン・ニューヨーク・ハリウッド・ラスベガス・シリコンバレーが一つになり、さらにアメリカ全土に分散する大企業が一カ所に集中したような病的肥満体都市といわざるをえない。さらにブラックホールと化したこの怪物都市は、全国から人・企業を吸い寄せ、文化と情報発信機能を独占する。そして地方から東京圏内にやってきた人たちは、狭小な住宅、通勤地獄、交通渋滞、公害、大地震の恐怖に苦しみながらも、魅力的な都市や企業のない地方には戻れず、東京に居座りつづけるのである。こうした構図に抜本的にメスを入れないかぎり、道州制を導入したところで、東京はいつまでたっても住みにくい都市であり、一方地方は経済的に自立ができず、結果的に地方分権も 「絵にかいた餅」に終わるだろう。 すなわち、現在の日本において、道州制を導入したとしてもそれがうまく機能しないという原因は、本来各地方に配置されるべき都市機能がほとんどすべて東京に集中してしまっているということにある。したがって、これを解決するための必然的な帰結は、東京の都市機能を全国に分散するということしかない。そして、そうしたことから連想されるのは、首都機能の移転であろう。確かに、今までも一部の人たちが提唱していた道州制の導入と同時に首都機能の移転を行うというアイデアは、東京に集中する諸機能のうち政治機能を分離し、東京の求心力を減じるという意味において、より現実的な案ではある。しかし、首都圏の人口三千五百万人に対して、新首都は数十万人以下の人口を抱えるにすぎず、また、極端な経済・文化・情報発信の東京への一極集中も残されたままとなる。「首都機能の移転なんかしても東京の過密解消にはたいして役立たない」という首都機能移転反対派の人たちの主張にも一理あるのである。 したがって、本格的に東京の一極集中を是正するためには、単に政治機能を移すだけでなく、経済・文化・情報発信機能もある程度東京から分離して全国に分散させなければならない。すなわち、先程指摘したように、東京がアメリカのワシントン・ニューヨーク・ハリウッド・シリコンバレーなどを集合させたような都市とするならば、まず東京から首都機能を移転させて「日本のワシントン」を建設し、さらに映画会社・放送会社などを分離して「日本のハリウッド」を作る。東京に集中するエレクトロニクスの大企業群は「日本のシリコンバレー」としていくつかの州に移し、またこれは東京の企業を移転するわけではないが、一部の道州にはカジノを認めて「日本のラスベガス」を建設する必要もあろう。そしてこれらの都市を各道州の経済発展と情報発信の拠点とするのである。そして東京は、病的肥満体都市から普通の肥満体都市に減量し、「日本のニューヨーク」に限りなく近づく……という次第である。 では次に、それらの都市を各道州にどのように配置すればいいのか、筆者の案を提示してみよう。具体的な移転場所は、主として今まで首都機能を誘致してきた地域の中から選んだが、中国州・四国州・九州においては、誘致している地域がないので、筆者が適当と思う場所を決めることにした。なお、東京の企業群が移転する都市に関しては、エレクトロニクス関係以外の企業も移転する可能性があるので、「日本のシリコンバレー」という表現は使わずに「新産業都市」とする。 ●北海道……新千歳空港周辺か ●東北州……宮城県南部に「新産業都市」を建設する。 ●関東州……「日本のニューヨーク」である東京があるので、新都市は建設しない。しかし、移転する官庁や企業の跡地の再開発は、新都市建設に並ぶくらい大規模なものになる。 ●中部州……岐阜・愛知に「日本のハリウッド」を建設する。 ●近畿州……三重・ ●中国州……岡山県西部に「新産業都市」を建設する。 ●四国州……香川県内に「日本のラスベガス」を建設する。 ●九州………福岡県南部か佐賀県南部に「新産業都市」を建設する。 以上が私の「八道州・七新都市構想」だが、こうした案を目にして多くの人は次のように感じるのではないだろうか。 「首都機能の移転だけでも十四兆円もの巨費が必要といわれているのに、七つも新都市を建設したら百兆円もかかるんじゃないの。現在巨額の財政赤字に苦しんでいる国にとって、そんな巨大事業を行うことは不可能だろう」 いや、とんでもない。確かにこれらの総事業費は数十兆円程度になるが、国は実質的に一円の税金も使う必要はない。それでいてその経済波及効果は長期的には何百兆円にもなり、内需を拡大し、税収を増やし、国の財政赤字を削減する。まさに日本の国にとって では、なぜこれほどの巨大事業を行うのに、国は税金を使う必要がないのだろうか。その理由を次に説明する。 まず首都機能移転だが、国会等移転審議会では、首都機能移転のモデル的試算として、現在の全ての行政機能を移転する最大ケースと、行革を行って行政機関の移転規模が縮小した二分の一ケースの両方の場合を発表している。これによれば、最大ケースでは人口五六万人、総事業費が十二兆三千億円、このうち公的負担は四兆四千億円ということになる。これに対し、二分の一ケースでは、人口三十万人、総事業費七兆五千億円、公的負担は三兆円にすぎない。この二分の一ケースは、かつて堺屋太一氏が首都機能移転について述べた著書『「新都」建設』で提示した数字とほぼ同じである。堺屋氏は首都機能移転にあたって中央官庁の仕事の多くを地方自治体に移して行革をすべきだと主張しているが、私の「八道州七新都市構想」でも道州制を導入して地方分権を実行すれば、当然中央官庁の規模は小さくなり、新都市は必然的に二分の一ケースのほうになる。すなわち国の支出は三兆円ということである。しかし、この数字が発表されたあと、民間の建設会社の努力によりビルなどの建設コストは大幅に下落している。最近は堺屋氏も国の支出を二兆円などと発言しているようだが、せいぜい二兆数千億円あれば足りるのではないだろうか。 しかも、この二兆数千億円というのも、税金で賄う必要はない。霞が関や永田町など官庁や国会が移転した跡地を売却して得られた利益を当てればいいのである。それらの跡地を安易に売却すべきではないと言う人もいるが、たとえば民間の企業が本社を移転すれば、元の本社の建物やその敷地は売却するのがふつうだろう。その会社の経営が苦しければ、なおさらである。現在巨額の財政赤字に苦しんでいる国が首都機能移転後の跡地を売却して移転費用に充てることは、当然の義務ともいえる。 もっとも、国はそれらの土地をすべて売却する必要はない。たとえば、霞が関の土地は、坪三千万円以上で売れるだろう。そうすると、国は霞が関の土地を売却するだけで二兆数千億円の事業費を捻出することができる。もっとも、「八道州・七新都市構想」が実行されると、東京の地価は現在より下落する可能性があるので、そうなると公務員宿舎の跡地を売却した費用を充てたり、あるいは永田町の跡地も売却しなければならなくなる可能性もある。が、いずれにしろ、国は税金を使わずに首都機能移転費用を得ることができるのは事実である。 これに対し、これ以外の新都市、すなわち「新産業都市」や「日本のハリウッド」「日本のラスベガス」の場合、そこに建設されるのはほとんど民間の施設である。民活を利用することにより、国の支出はゼロに抑えられるだろう。たとえば、国はそれらの移転先の土地を坪十万円で買収したとする。そしてそこにホテルやデパートなどが進出する場合、坪百五十万円で三十年間賃貸する契約を結ぶのである。これでもホテルなどは既存の都市に建設するよりずっと安上がりであるが、国はそれで得た利益を新都市の道路や公園などのインフラの整備に投入でき、両者が得をする仕組みになっている。 もっとも、民活を利用するとはいっても、東京湾の臨海副都心建設計画ではそれで失敗したではないか、と言われるかもしれない。私はバブル経済の崩壊を予測していたし、この建設事業には最初から反対だったが、この事業が失敗した要因の一つは、ここが海を埋め立てた造成地であるために巨額の費用がかかったことによる。たとえば、首都機能移転候補地の地価は平均して坪十万円以下と推定されているが、臨海副都心は埋立地のため坪百三十万円もの造成原価がかかっている。したがって、首都機能移転の総事業費が、新都市の面積が四八平方キロの場合で七兆五千億円と試算されているのに対し、臨海副都心は当初の計画では、わずか四・五平方キロで八兆円もの総事業費が必要とされたのである。私の提案する七新都市はみな地価の安い所に建設するので、コストが低い。臨海副都心という東京一極集中をさらに促進するバカげた計画に対し、私の提案する構想がいかにコストパフォーマンスの高いものかご理解ねがえると思う。 さて、以上のような七新都市建設が実行されると、それによって道州制導入の実現性が大きく高まると同時に、日本経済にとっても救世主的役割を果たすことになる。まず第一に、各地方に(ただし関東は除く)新都市という巨大なアメを与え、かつそこが都道府県の役人の再就職先を生み出すことにより、道州制導入に対する反対を抑え、その実現の可能性を高める。第二に、これによって東京の一極集中が是正されてその求心力が弱まる一方、地方経済が活性化されるため、各道州が経済的・政治的に自立できて地方分権がうまく機能し、道州制を成功に導くことができる。第三に、この七新都市が完成すると、そこは多くの雇用と同時に様々なビジネスも生むので、現在の過度に公共事業に依存した地方経済が、それから脱却した経済へとソフトランディングできる。第四に、この建設事業は規模が巨大であるにもかかわらず税金の支出を必要としないので、景気を活性化しつつ国は財政再建を実現することができる。第五に、この七新都市は「日本のハリウッド」や「日本のラスベガス」に代表されるように、映像・音楽のソフト制作や新たな観光業といった経済のソフト化・知価化に応じたビジネスが振興されるため、日本経済の構造転換に役立つ。 そのほかにもこの事業によるメリットは数多くあり、一石二鳥どころか一石二十鳥ぐらいの効果がある。しかし、それについては次章からこれらの新都市、すなわち「新首都」「新産業都市」「日本のラスベガス」「日本のハリウッド」というのはどのような性格を持つのかといったことについて順次説明していく、その中で指摘していこうと思う。 『八道州・七新都市構想』に戻る 「八道州・七新都市建設の提言」3へ進む このページのトップに戻る |