SABOの八つの世界   

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  「三つのファンタジーに戻る」
登場人物・イメージキャスト
安藤裕美子(20)  安達祐実
宇多田ヒカル(17) 宇多田ヒカル
片山大二郎(25)  伊勢谷友介
安藤善和(53)    草刈正雄
吉川綾(25)     菊川怜
マネージャー(33)  パパイヤ鈴木
男A(30位)      有田哲平
その他


本文

○ 安藤邸・裕美子の部屋
 ミティ  
  ピンクの子熊のぬいぐるみ。(名前をミティという。葉っぱの帽子を被り、子熊が描かれたエプロンを
  付けた、思わず抱きしめたくなるような可愛いぬいぐるみである)
  ピンクの壁紙にカーテンにベッドカバー。ピンクの時計に化粧道具。それにピンクの家具。あらゆる
  ものがピンク一色。(それらに重なってメイン、およびクレジットタイトル)
  背景には、宇多田ヒカルの歌『オートマティック』が、かなり大きな音量で流れている。
  机の上のパソコン(といっても、モニターの映像が宙に浮かんでいるだけだが)には、宇多田ヒカル
  のプロモーションビデオが映されている。
  その前に腰かけ、体でリズムを取っているのが安藤裕美子(20)。(二十歳といっても童顔なので、
  少女にしか見えない)
                 宇多田ヒカルのビデオを見る安藤裕美子
  ドアがノックされるが、音楽の音で裕美子は気がつかない。
  ドアがあき、安藤善和(よしかず)(53)が顔を出す。
善和「裕美子。(大きな声で)裕美子!」
  裕美子、気づいて振り返る。
裕美子「あ、パパ。(パソコンに)音量、小さく」
  音楽の音が小さくなる。
善和「パーティーの準備ができたよ。降りてきなさい」
裕美子「はい」
  善和、音楽に耳を傾け、
善和「いい曲だね。誰の歌だい?」
裕美子「それが宇多田ヒカルって二十一世紀の歌手なんだけどね」
善和「二十一世紀の歌手?」
  善和、部屋の中に入る。
裕美子「うん。この前買った、自分の脳波パターンを登録しておくと、好きな曲を自動的に選んでくれる
 ソフトがあったでしょう?」
善和「ああ、歴史上の千二百万の曲や歌の中から、好きな曲ベスト千を瞬時に選んでくれるソフトだね」
裕美子「そう。ところが、そのうちのベストテンの中の六曲までが、この宇多田ヒカルっていう歌手の歌
 なのよ。それに、初めて聞く歌なのに、なぜかなつかしいの」
  善和、裕美子に近づく。
善和「ふむ、それはデジャビュ、既視感(きしかん)。いや、音楽だから既聴感(きちょうかん)というべきかな。……で、彼女のプロ
 フィールについては聞いた?」
裕美子「ううん、まだ」
善和「聞いてごらん」
裕美子「(パソコンに)宇多田ヒカルの簡単なプロフィールを教えて」
  パソコンは女性の声で説明する。モニターには、文字の説明も表示される。
パソコン「宇多田ヒカル。一九八三年、ニューヨーク生まれ。十五歳のとき、自ら作詩作曲した『オートマ
 ティック』が大ヒット。その後、日本を代表するシンガーソングライ ターになる。十九歳で結婚。コロン
 ビア大学文学部卒業。二〇七〇年、八十七歳で死去」
裕美子「八十七歳。わりと短命だったんだね」
善和「当時の人間の寿命なんてそんなものさ。当時はまだ医学が未発達だったからね。しかし、彼女
 は裕美子と同じで頭がよく才能がある。しかも、彼女の歌を初めて聞くにもかかわらず、裕美子はな
 つかしく感じる。これはもしかしたら彼女は……」
裕美子「私の前世?」
善和「その可能性はあるね」
裕美子「でも、パパは前世についてはあまり知らないほうがいいっていってたわよね」
善和「そう。前世を知ることは諸刃(もろは)(つるぎ)でね、前世からの精神的・肉体的トラウマを抱える人は、それ
 を知ることによって救われる。しかし、そうでない場合は、前世を知ることが大きな負担になることもあ
 るんだ。だからパパは今まで自分の前世は調べなかったし、裕美子にも勧めなかった」
裕美子「私は今日まで未成年でもあったしね」
善和「そう。しかし、こうして裕美子が彼女の歌に出会い、それに強く引かれたということは、何か運命
 的なものを感じるな。ある種の天の啓示かもしれない」
裕美子「それって、彼女については私の前世かどうか調べてもかまわないっていうこと?」
善和「うん。もし裕美子がそれを望むのならね」
裕美子「私、調べてみたい」
善和「では前世探索(たんさく)ソフトを買ってあげよう。確か今月ニューバージョンが出たはずだ」
裕美子「(パソコンに)前世探索ソフトを買いたいんだけど」
パソコン「前世探索ソフト『前世君 二二七四年版』は二五六グローバです。お支払いに同意の場合
 は、登録ずみの手と声で了解してください」
  善和、右手をモニターの前にかざし、
善和「了解」
パソコン「安藤善和様の口座より二五六グローバ引き落としました。お買上げありがとうございます。
 『前世君 二二七四年版』をダウンロードしました」
裕美子「で、私の前世について聞きたいんだけど」
パソコン「まず、お客様の前世記憶をソフトにコピーしてください」
裕美子「どうすればいいの」
パソコン「モニターの前、一メートル以内に腰かけ、目を閉じて心を落ち着かせてください」
  裕美子、目を閉じる。
裕美子「準備できたわ」
パソコン「では安藤裕美子様の前世記憶をコピーします。(三秒後)コピー終わりました」
裕美子「(目をあけ)で、聞きたいんだけど、宇多田ヒカルって私の前世にいる?」
パソコン「はい、おります」
  モニターに宇多田ヒカルの写真が映され、その下部に、『宇多田ヒカル1983-2070』という文字
 が出る。
裕美子「やっぱり、そうなんだ」
パソコン「安藤裕美子様の前世は全部で二十七あり、最初から数えて二十六番目が宇多田ヒカルです」
善和「ふむ、パパの勘は当たったな。じゃ、裕美子、パーティーが始まるから早く降りてきなさい」
裕美子「はい」
  善和、部屋から出ていこうとする。
裕美子「あ、パパ」
  善和、振り返る。
裕美子「二十一世紀には輪廻転生(りんねてんせい)は迷信だと考えられてたってほんと?」
善和「うん、当時はまだ科学が未発達だったからね」
  善和、出ていく。
裕美子「(パソコンに)パソコン、オフ」
  宇多田ヒカルの写真が映っているパソコンのモニターが消える。

○ 同・LD
   
  二十三世紀の邸宅のリビングダイニング。四、五十畳の広さで二階まで吹き抜けになっており、階
 段もある。
  ガラスと大理石をふんだんに使った部屋は、デザイン的には、二十一世紀のモダンなそれと大差は
  ない。
  裕美子がガラス製の階段を降りてきて、ダイニングテーブルに着く。
  善和はすでに着席しており、テーブルの上には御馳走(ごちそう)が並んでいる。
  キッチンからピンクの女性のロボットが、ピンクのバースデーケーキを持って出てくる。そして、それ
 をテーブルの上に置く。ケーキの上には火の()いた二十本のローソクが立ててある。
   
  善和とロボットが『ハッピーバースデー』の歌を歌う。
善和・ロボット「ハッピーバースデー・トゥーユー、ハッピーバースデー・トゥーユー、ハッピーバース
 デー・ディア裕美子、ハッピーバースデー・トゥーユー」
  裕美子、ローソクの炎を吹き消す。
                  
  手を叩く善和とロボット。(ロボットの手を叩く音は金属音がする)
善和「誕生日おめでとう。ついこの間まで子供だと思ってたのに、もう二十歳のレディーか。ますます天
 国にいるママに似てきたね」
裕美子「(微笑する)……」
  善和、隣の椅子に置いてあったピンクの小箱を裕美子に差し出す。
善和「さあ、プレゼントだよ」
裕美子「(受け取り)どうもありがとう」
  といってあける。が、中に入っているのはピンクの鍵が一つ。
  裕美子、怪訝(けげん)そうにそれを取り出す。
裕美子「これがプレゼント?」
善和「残念ながらその箱には大きすぎて入らなかったんでね。本体はガレージに置いてある」
裕美子「……それってまさか……」
善和「見にいってごらん」
  裕美子、立ち上がると、足早にリビングのドアから出ていく。
  その方を微笑して見ている善和。
                  

○ 同・ガレージ
  大型の倉庫のような広いガレージ。
  自動ドアがあき、裕美子が入ってくる。
  三台の「空飛ぶ自動車」の向こうに、直径が十メートルほどもあるピンクのUFOのような乗り物が
  置いてある。
  裕美子、驚きの表情でそれに近づく。
裕美子「わっ、すごい。トヨタの最新型のタイムマシンだ」
                  
  裕美子、タイムマシンの窓に近づくと、その中を観察する。中もピンク一色である。
  裕美子、あいている入口から中に入る。

○ 同・タイムマシンの中
                  
  中は十五畳ほどの広さがあり、窓際には二つの操縦席(回転椅子)がある。また、窓の反対側の壁
  には収納の扉や引出し、それにシャワーなどがある隣室へのドアがある。
  入ってきた裕美子、あたりを見回し、隣室へのドアをあけて中をのぞくと閉める。そして操縦席に
  座ってみる。
  (操縦席の前は、ボタン類や計器類などは何もない。ただ、映画『二〇〇一年宇宙の旅』に出てくる
  ような、コンピューターの半球形の目があるだけである)
  窓の向こうに、やってきた善和が手を振るのが見える。
  裕美子も笑顔で手を振る。

○ 同・LD
               
  裕美子がリビングのソファに腰かけている。
  善和、サイドボードの引出しから電子体温計のような形のピンクの機械を取り出すと、裕美子の前
  に立つ。
善和「では、これから時間旅行をするにあたっての注意を二、三述べておこう。これがタイムマシンの
 付属品の万能ペンだ」
  といって『万能ペン』を示す。
善和「これは今までのように、番号合わせも、機能を口に出す必要もない。ただ、心の中で機能を念じ
 てボタンを押す、それだけで百七十四の機能を使いこなせる」
裕美子「へえ、ずいぶん進歩したんだ」
  善和、万能ペンを裕美子に手渡す。
善和「機能については説明書をよく読んでおくように」
  万能ペンを観察している裕美子。
善和「それから、時間旅行についての法律は裕美子はよく知ってるね」
裕美子「ええ、タイムトラベル規制法はすべて暗記してるわ」
善和「裕美子はIQ一四〇のスーパー少女、いや、今日で二十歳になったんだから、スーパーレディー
 というべきかな。だから知識に関しては心配ない。しかし、知識と実践(じっせん)は違う。そこが問題なんだ。た
 とえば、規制法の第三十七条は何だい」
裕美子「タイムトラベラーは時間旅行中、何人(なんびと)の命を奪ってはならない。また、何人の命を救ってもい
 けない」
善和「そう、最初のほうは心配ない。問題はあとのほうだ」
裕美子「それは大丈夫」
善和「しかし、裕美子は心優しい少女、いや、レディーだ。だから気の毒な人を見ると、つい助けてやり
 たくなるんじゃないかと思ってね」
裕美子「大丈夫。そのときは心を鬼にするから」
  善和、裕美子に近づき、その(ほお)を軽く指先で叩く。
善和「かわいい鬼だね」
裕美子「(微笑する)……」
  善和、椅子に腰かける。
                
善和「で、次の問題は、最初の時間旅行先にどこを選ぶかだ」
裕美子「それについてはパパ、考えたんだけどね、私、宇多田ヒカルに会いにいこうと思うの」
善和「宇多田ヒカル?」
裕美子「うん。彼女の歌を聞いてるうちに、なんか無性(むしょう)に会いたくなってきたの」
善和「ふむ、自分自身の前世に会いに行くか。アイデアとしては面白いね。でも実際問題として、それ
 は(むずか)しいんじゃないかな」
裕美子「どうして」
善和「彼女は当時のスーパースターだ。だから常に回りを関係者やボディーガードに囲まれているだろ
 うからね」
裕美子「あ、そうか」
善和「しかし、チャンスがないとはいえない。たとえば、彼女が結婚前に、休暇に一人でリゾートホテル
 に泊まったときなんかが狙い目だな」
裕美子「リゾートホテル?」
善和「そう。そのときは家族や関係者も回りにはいないだろうからね。ボディーガードの一人や二人は
 付いてるだろうが」
裕美子「でも、彼女がいつ、どのリゾートホテルに泊まったかは、どうしてわかるの」
善和「それは裕美子の前世記憶を見ればいい」
裕美子「ああ、そうか。私の前世記憶には、彼女が一生の間に泊まったすべてのホテルと、その部屋
 番号のデータまで入ってるんだ」
善和「そのとおり。まあ、いろいろ準備もいるから出発は一週間後。それまでに計画をしっかりとたてて
 おくんだね」
                                                      (O・L)
○ 同・ガレージ
                 
  裕美子がミティ(ピンクの子熊のぬいぐるみ)とピンクの旅行鞄を持ってタイムマシンの前に立ってい
  る。
裕美子「じゃあ、パパ、出発します。西暦二〇〇〇年、二十世紀最後の年へ」
  裕美子の前にいる善和、
善和「じゃあ、くれぐれも気をつけてね。あと言い忘れたが、最近、新型のコンピューターウイルスが出
 回っている。タイムマシーンのコンピューターを専門に狙って、時空を越えて突然侵入する悪質なや
 つだ。ハルには修復ソフトが付いてるが、一時的にコンピューターが麻痺(まひ)する恐れがあるから気をつ
 けるんだよ」
裕美子「はい」
善和「それからくどいようだけど、時間旅行中、人の命を救ってはいけないよ」
裕美子「わかってる。じゃ、行ってきます」
善和「いってらっしゃい」
  裕美子はタイムマシンに乗り込み、ドアが閉まる。
                
  善和、窓の方に回り込む。
  窓ガラス越しに、ミティを隣の操縦席に置き、自分も操縦席に着く裕美子が見える。
  手を振る裕美子。
  善和、手を振りながらタイムマシンから離れる。
  タイムマシンは消える。
    

○ 丘の上
                 
  風光明媚(ふうこうめいび)なリゾート地にある丘。
  直径百メートルほどある草地の周囲は木々に囲まれていて、外側からの視界はさえぎられている。
  突如(とつじょ)、丘の中心にピンクのタイムマシンが現れる。
  ドアがあき、裕美子が降りてくる。
裕美子「(深呼吸して)これが二十世紀の空気だわ」
  裕美子、何か考えると、ポケットから万能ペンを取り出し、手の上にのせる。
  万能ペンは手の上で磁石の針のように左右に回り、裕美子の体の方を指してピッと鳴る。
  裕美子、タイムマシンの反対側へ回り、出発する。
                  

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